西暦1971年 - インテル、4004発表

世界初の民生用マイクロプロセッサ
Intel 4004
Intel 4004
1971年(昭和46年)、ビジコン社の社員としてインテルに赴いた嶋正利 (しままさとし) 、インテルのフェデリコ・ファジンテッド・ホフらによって世界初のマイクロプロセッサ「Intel 4004」が開発される。
クロック周波数は500~741kHzで、pMOSプロセスの3mm×4mmのチップ(ダイ)の上に2,237個のトランジスタを集積。10μmのプロセス・ルールで製造された。
ビジコンは1966年(昭和41年)に30万円を切る電卓を投入して業界に衝撃を与えた中堅の電卓メーカーである。ビジコンは、多品種展開のためにストアドプログラム方式に基づく電卓を開発しようとしていた。その際に、LSIの開発を委託したのがまだ創業間もないインテルだった。
そこでインテルのテッド・ホフは、マイクロ命令を採用した汎用的に使える4ビット・マイクロプロセッサを提案した。これが 4004 である。
当時のICとして標準的な16ピンDIPのパッケージに収納するため、12ビットのアドレス、8ビットの命令、4ビットのデータを時分割で使用している。このため、命令アドレス出力に3クロック、命令読み出しに2クロック、命令実行に3クロックの計8クロックを要する。
周辺チップとして、容量2048bitのマスクROM 4001、容量320bitのRAM 4002、10bitシフトレジスタ兼10bit出力ポートの4003があり、これらをセットで MCS-4(Micro Computer Set)と呼んだ。

ただ、4004 の開発は一筋縄ではいかなかった。
1969年(昭和44年)12月、テッド・ホフと嶋正利らは基本アーキテクチャを完成した。この時点で嶋らをビジコンの技術者は一度日本に戻った。1970年(昭和45年)4月に再渡米したとき、4004 の回路設計はまったく進んでいなかった。回路技術者としてフェデリコ・ファジンを採用したばかりで、ホフからファジンへの引き継ぎもなかったという。そこで嶋は論理設計を担当し、ファジンと協力して4004を開発した。
このときの働きが評価された嶋は、のちに「Intel 8080」の開発を手がけることになる。

世界初のマイクロプロセッサ「MP944」

MP944 PMU
MP944 PMU
4004 は世界初の〈民生用〉マイクロプロセッサである。
じつは、アメリカ海軍が F-14戦闘機(トムキャット)の主翼の後退角と飛行制御のための CADC(Central Air Data Computer)に搭載された MP944 が1970年(昭和45年)までに設計が終わっており、これが世界初のマイクロプロセッサとされている。
MP944 は、1個の並列乗算ユニット(PMU)、1個の並列除算ユニット(PDU)、3個のランダムアクセスストレージ(RAS)、9個のリードオンリーメモリー(ROM)、1個の専用論理機能(SLF)と3個のステアリングロジックユニット(SLU)から成るマイクロプロセッサシステムで、毎秒9,375回の命令を実行する能力をもっており、4004 の約8倍の処理速度を誇った。システム全体のトランジスタ数は74,442個に達する。

CADC は、静圧センサー、動圧センサー、航空機温度プローブ、アナログおよびデジタルのパイロット入力という5つのソースからデータを受け取り、マッハ数、高度、対気速度などをリアルタイムで計算し、F-14の飛行性能の鍵となる可変翼システム、機動フラップ、グローブベーンなどの動翼を精密に制御した。
軍用機としての厳しい要件を満たすため、MP944 は-55℃~125℃までの広範な温度範囲で動作する耐久性を備えており、システムは飛行中も常時自己診断を実行し、もし障害が検知された場合は、18分の1秒以内に標準装備された同等のバックアップユニットへと切り替わる冗長システムを搭載しており、パイロットの安全を守った。

MP944 のワード長は20ビットだが、これはインテルが1978年(昭和53年)に発表した 8086 の 16ビットより長い。
この時代、20ビットのワード長を持つのは、英General Electric Companyのミニコン「GEC 2050」や、英Ferrantiの汎用機「Ferranti Orion」など、欧州のコンピュータだけで、科学計算精度を重視しているIBMの汎用機は36ビットだった。
MP944 は、F-14の制御に必要な精度と小型化と耐久性という要求から、20ビットに落ち着いたものと思われる。
飛行中のリアルタイム演算が欠かせないことから、並列演算処理ができたことは画期的であった。インテルが並列演算処理(パイプライン処理)を備えたのは、1985年(昭和60年)に発表された 80386 からである。

軍用コンピュータであることから1998年(平成10年)まで機密扱いとされてしまい、残念ながら、それまでは「世界初のマイクロプロセッサ」として認知されなかった。

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1970年Garrett
AiResearch
MP944 (軍用)20bit375KHz
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1983年NECV3016bit16MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年インテルi96032bit100MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1989年インテルi86032bit50MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラPowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM1/M2/M3/M464bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz

参考書籍

表紙 CPUの働きと高速化のしくみ
著者 山田宏尚
出版社 ナツメ社
サイズ 単行本
発売日 2004年04月
価格 1,540円(税込)
ISBN 9784816336959
CPU(Central Processing Unit「中央処理装置」と訳される)は、パソコンだけでなく、エアコンや炊飯器など、驚くほど身近な機器に搭載されています。そのような機器になぜ、CPUが必要なのか。それは、CPUに仕事(処理)をする能力があるからだ。ただの石のように見えるCPUにどうして仕事ができるのか。本書ではその原理を解説している。はじめは簡単なことしかできなかったCPUが、いろいろなことができるようになった。その発展の歴史も掲載。そして、CPUがより高速に処理を行えるように考えられた、驚くべき技術についてもしっかり解説。
 

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