西暦786年 - ハールーン・アッラシードが即位

アッバース朝の最盛期
ハールーン・アッラシード
アッバース朝第5代カリフ、ハールーン・アッラシード
ハールーン・アッラシードは、父マフディーの治世に東ローマ帝国への遠征を指揮し、ペルシア系官僚のヤフヤー・イブン=ハーリドに支えられて経験を積んだ。兄ハーディーの死後、786年(延暦5年)に20歳前後で第5代カリフに即位した。その23年間の治世は、アッバース朝の政治・経済・文化が栄えた時代として知られる。

即位直後、母ハイズラーンとヤフヤー・イブン=ハーリド、その息子たちからなるバルマク家が政務を支えた。バルマク家は宰相や地方総督として、税の徴収、軍の運営、学者や詩人の保護を担い、広大な帝国を安定させた。中央アジアに起源をもつペルシア系官僚の知識と制度が、アラブ人王朝の統治に深く取り入れられたのである。
首都バグダッドは、東西の陸路と、ティグリス川からペルシア湾へ続く水路が交わる交易都市として発展した。中国の紙、インドの香辛料、中央アジアの織物などが運ばれ、商人、職人、学者が集まった。人口を150万人とする説もあるが正確な数は分からない。それでも当時の世界最大級の都市であり、宮廷では詩、音楽、医学、天文学などが奨励された。後世にはこの繁栄が「イスラム黄金時代」の象徴とみなされた。

対外的には、東ローマ帝国との国境で戦いを重ねた。806年(延暦25年)には大軍を率いて小アジアへ侵攻し、皇帝ニケフォロス1世に貢納を認めさせた。ただし国境地帯の攻防は続き、恒久的な征服には至らなかった。一方、西方のフランク王カール大帝とは使節と贈り物を交換した。両者の外交には、東ローマ帝国や後ウマイヤ朝をけん制する狙いがあったと考えられる。

803年(延暦22年)、ハールーン・アッラシードは長く政権を支えたバルマク家を突然失脚させ、以後は自ら主導して統治した。理由は一つに定まらないが、一族への権力と富の集中を警戒したためとみられる。その後、ホラーサーンなど東部では重税や総督の圧政に対する反乱が広がった。彼は鎮圧のため遠征したが、809年(大同4年)、途上のトゥースで没した。

後継者には、長男アミーンを第1位、別の母から生まれたマアムーンを第2位とし、マアムーンにはホラーサーン統治を任せた。この取り決めは帝国をまとめる工夫であったが、死後に兄弟が対立し、811年(弘仁2年)から内戦となった。治世は繁栄の頂点であると同時に、地方勢力の成長と中央政府の分裂という、次の時代の問題が表れ始めた時期でもあった。

『千夜一夜物語』では、ハールーン・アッラシードが身分を隠して夜のバグダッドを歩き、人々の暮らしを見聞する名君として描かれる。しかし、これは後世に形成された文学上の姿であり、そのまま史実とはいえない。物語が広く読まれたことで、実際の政治や軍事以上に、豪華な宮廷と繁栄するバグダッドのイメージが世界へ伝わったのである。

バグダッド付近の地図

参考書籍

表紙 千夜一夜物語(全11巻セット)―バートン版
著者 大場正史
出版社 筑摩書房
サイズ 文庫
発売日 2004年08月10日頃
価格 17,490円(税込)
ISBN 9784480038401
 

参考サイト

この時代の世界

675 725 775 825 875 700 700 700 700 800 800 800 800 786 ハールーン・アッラシードが即位 766 809 ハールーン・アッラシード 750 アッバース朝が成立 712 775 マンスール 751 タラス河畔の戦い 732 トゥール・ポアティエの戦い 731 788 アブド・アッラフマーン1世 784 長岡京へ遷都 737 806 桓武天皇 733 799 和気清麻呂 735 785 藤原種継 750 785 早良親王 718 770 孝謙天皇→称徳天皇 794 平安京へ遷都 710 平城京に遷都 688 763 鑑真 701 756 聖武天皇 701 760 光明皇后 752 大仏の開眼供養 718 785 大伴家持 727 786 坂上苅田麻呂 758 764 淳仁天皇 760 802 阿弖利為 758 811 坂上田村麻呂 767 822 最澄 774 824 平城天皇 802 坂上田村麻呂が東国を平定 774 835 空海 804 最澄、空海が唐へ 751 タラス河畔の戦い 688 763 鑑真 685 762 玄宗 701 762 李白 705 757 安禄山 710 761 史思明 719 756 楊貴妃 755 763 安史の乱 742 805 徳宗 732 トゥール・ポアティエの戦い 714 768 ピピン 742 814 カール大帝 750 816 レオ3世 793 ヴァイキングがイングランドへ侵入 800 カールの戴冠 778 840 ルートウィヒ1世 795 855 ロタール1世 760 811 ニケフォロス1世 793 ヴァイキングがイングランドへ侵入 Tooltip
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