PowerPC 601はMacの大移行を成功させた初代RISCチップ

1993年10月出荷開始
PowerPC 601
PowerPC 601
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PowerPC 601 は、アップルコンピュータIBMモトローラ の3社連合「AIM連合」が1991年(平成3年)から共同開発し、1993年(平成5年)10月に量産出荷を開始した最初のPowerPC である。インテル のx86系が支配する市場に、RISC 陣営として真正面から挑んだ野心作であった。

目次

AIM連合の結成とIntelへの挑戦

IBM POWER 1
IBM POWER 1
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1980年代後半、アップルコンピュータMacintoshモトローラ の68kシリーズを搭載していたが、性能面でインテル のx86系に押され始めていた。一方IBM は1990年(平成2年)、独自のRISC プロセッサ「POWER」をワークステーションRS/6000 向けに開発しており、これをパソコン用に転用しようとアップルに提携を持ちかけた。

交渉の結果、1991年(平成3年)7月に基本合意、同年10月2日にアップル・IBMモトローラ の3社は「AIM連合」(Apple・IBM・Motorola)を正式に結成した。目的は、マイクロソフト とインテルが握る「Wintel」の寡占状態に、RISC ベースの新プラットフォームで対抗することであった。

Somerset開発拠点とPowerPC 601の開発

AIM連合は米テキサス州 オースティンに共同開発拠点「Somerset」を1992年(平成4年)に開設し、IBMモトローラ の技術者が机を並べて設計にあたった。IBM のPOWERアーキテクチャを単一チップに落とし込み、パソコンでも扱いやすい規模に整理し直す作業が急ピッチで進められた。
こうして誕生したPowerPC 601 は、1993年(平成5年)に発表されたIBM のワークステーション「RS/6000 Model 250」に初めて採用され、同年10月に量産出荷が始まった。初期型は0.6μmプロセスで製造され、約280万個のトランジスタを集積、動作クロックは当初50MHzで、改良型を含めて高クロック化された。

PowerPC 601のアーキテクチャ

PowerPC 601 アーキテクチャ
PowerPC 601 アーキテクチャ
PowerPC 601 は、整数演算ユニット(IU)・浮動小数点演算ユニット(FPU)・分岐処理ユニット(BPU)という3個の独立した実行ユニットを備えた。条件が整えば各ユニットへ1命令ずつ送り、1クロック当たり最大3命令を同時発行できるスーパースカラ 構造である。なお、601の実行ユニットは8個ではなく3個であり、「3命令同時発行」はこの3系統の並列動作を指す。
PowerPC 601 は32KBの統合型1次キャッシュを内蔵した。命令用とデータ用を分離する後継の603・604とは異なる601固有の構成で、命令とデータが同じキャッシュ容量を共有する。外部データバスは64ビット幅を備えつつ、プロセッサと命令セットは32ビットである。
PowerPC 601 は32ビットPowerPC命令セットを実装するとともに、多数のPOWER命令も備え、既存のPOWER向けソフトウェアとの互換性に配慮していた。POWERと新しいPowerPCの橋渡しを担う過渡的なプロセッサであり、後継のPowerPC 603PowerPC 604 ではPOWER互換命令の多くが省かれ、より純粋なPowerPC実装へ移行した。

Power Macintoshと「大移行」の成功

Power Macintosh 6100
Power Macintosh 6100
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1994年(平成6年)3月14日、アップルコンピュータPowerPC 601 を搭載した「Power Macintosh」6100・7100・8100を発表した。初代モデルのクロックは、エントリー機の6100が60MHz、ミドルレンジの7100が66MHz、最上位の8100が80MHzだった。従来の68kシリーズからCPUアーキテクチャを丸ごと切り替える、いわゆる「大移行(トランジション)」の始まりである。
互換性維持の鍵となったのが、ソフトウェアで68kコードを実行する68kエミュレータだった。Mac OSの大部分がまだ68kコードのまま残っていたが、このエミュレータのおかげで既存アプリケーションもそのまま動作し、ユーザーは大きな混乱なく新CPUへ移行できた。Mac OS 7.1.2以降のPower Macintoshには68LC040相当の命令エミュレーション機構が搭載され、多くの68kアプリをほぼ意識せずPowerPC Mac上で実行できた。
1998年(平成10年)にはMac OS 8.5がPowerPC専用となり、OSを含む移行はおおむね完了した。初代Power Macintoshの登場から約4年半を要したが、アップルは既存ソフトウェアとの互換性を保ちながら、この「大移行」を成功させた。この経験は、後年のIntel移行(2006年)やApple Silicon移行(2020年)の土台にもなった。

広がるPowerPC一族(602~G3)

PowerPC 604
PowerPC 604
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PowerPC 601 を皮切りに、AIM連合は低消費電力のPowerPC 603、高性能版のPowerPC 604、そして1997年(平成9年)のPowerPC G3(PowerPC 750)へと矢継ぎ早に世代を重ね、Power Macintoshの性能向上を支え続けた。
PowerPC G3
PowerPC G3
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ゲーム機黄金期を支えた「心臓部」

ニンテンドーゲームキューブ メイン基板
ニンテンドーゲームキューブ メイン基板
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PowerPC 601 が切り開いたアーキテクチャは、2000年代のゲーム機黄金期を支える「心臓部」ともなった。2001年(平成13年)発売のニンテンドーゲームキューブPowerPC 750CXe を改良したIBM 製「Gekko」(486MHz)を採用した。
2005年(平成17年)のXbox 360 は3コアの「Xenon」(3.2GHz)を、2006年(平成18年)のPlayStation 3IBM東芝ソニー が共同開発した「Cell」を搭載した。同年発売の Wii も後継「Broadway」を採用し、PowerPC 系CPUは家庭用ゲーム機市場を席巻した。

その後のCPU・GPUに与えた影響

Cell が採用した8基の演算ユニット「SPE」による並列処理は、同時期に発展したGPUによる汎用計算(GPGPU)とともに、異種コアを用いる並列計算の可能性を示した。PowerPC G4 が搭載したベクトル演算ユニットAltiVec も、SIMD命令の普及に一役買った。

モトローラ から半導体事業を分離したフリースケール は、PowerPC系コアを組み込み分野へ展開し、通信機器向けのPowerQUICC、さらに「QorIQ」シリーズへ発展させた。QorIQは後にARM系コアも採用し、現在はNXPが展開している。一方、源流となったPOWER アーキテクチャ自体は2019年(平成31年)にオープン化され、現在もPOWER10やPOWER11としてサーバー・スーパーコンピュータ分野で開発が続いている。

伝説の「G4/G5」と限界

PowerPC 970
PowerPC 970
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1999年(平成11年)のPowerPC G4 はベクトル演算ユニットAltiVec で人気を博し、2003年(平成15年)のPowerPC G5PowerPC 970)はついに64ビット化を果たした。しかし発熱は深刻で、最速モデルは液冷を必要とし、ノートパソコンへの搭載は実現しなかった。
2003年(平成15年)の発表時、スティーブ・ジョブズ は「2年以内に3GHz到達」を公約したが、モトローラ(当時フリースケール)もIBM も高クロック化の壁を突破できず、公約は果たされなかった。この性能の頭打ちが、次の決断を促す直接の引き金となった。

x86、そしてARMへの移行

2005年(平成17年)6月、アップルはインテル 製CPUへの移行を発表した。2006年(平成18年)1月にIntel Core Duo 搭載Macを投入し、同年8月のMac Proをもって全Macの移行を完了した。1994年(平成6年)に始まったPowerPC Macの時代は、約12年で幕を閉じた。

それから14年後の2020年(令和2年)、アップルは今度は自社設計のARM ベースチップ「Apple Silicon」への移行を発表した。68kからPowerPC、PowerPCからIntel、IntelからARM へと続く3度の大移行はいずれも、PowerPC 601 が切り開いた前例に連なるものである。

主要スペック

項目 仕様
メーカー IBM, モトローラ
出荷開始 1993年10月
トランジスタ数 約280万個
プロセスルール 初期型0.6μm CMOS
データバス 外部64ビット/内部32ビット
1次キャッシュ 32KB(統合型)
命令発行数 最大3命令同時発行
CPUクロック 50~135MHz(派生・改良型を含む)
動作電圧 製品・世代により異なる

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1970年Garrett
AiResearch
MP944 (軍用)20bit375KHz
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1983年NECV3016bit16MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年インテルi96032bit100MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1985年エイコーンARM132bit6MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1988年MIPSR300032bit40MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1989年インテルi86032bit50MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1992年DECAlpha 2106464bit200MHz
1993年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60132bit120MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM1/M2/M3/M4/M564bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz

参考サイト

(この項おわり)
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