AMD Athlonはインテル互換ソケットを捨て世界初の1GHzに到達

1999年6月23日リリース
AMD Athlon(Slot Aモジュール基板)
AMD Athlon(Slot Aモジュール基板)
AMD Athlon(開発コード名K7)は、AMDが1999年(平成11年)6月23日に発売したx86互換CPUである。それまでのK5K6系列がIntelSocket 7互換ソケットを使っていたのに対し、Athlonは独自のSlot Aを採用し、インテル互換路線と決別した。EV6バスによる広帯域と強力な浮動小数点演算性能を武器に、2000年(平成12年)3月にはIntelに先んじて世界初の1GHz到達を果たした。

目次

Athlon誕生の経緯

AMD Athlon K7 ダイ写真
AMD Athlon K7 ダイ写真
AMDAm5x86以来、Intel互換ソケットで動く低価格CPUを武器にしてきた。K6-2K6-IIIではPentium IIPentium IIIに食らいついたが、浮動小数点演算性能では見劣りしていた。この弱点を克服すべく開発されたのが、開発コード名K7ことAthlonである。1999年(平成11年)6月23日に500MHz・550MHz・600MHzの3モデルで発売され、650MHz版が同年8月、700MHz版が10月に追加された。
Athlonは1クロックあたり最大3命令をデコード・発行できるスーパースカラ設計で、3本の整数演算パイプラインと3本の浮動小数点演算パイプライン(加算・乗算・ロードストア)を備える。命令セットには3DNow!の21命令に24命令を追加した「Enhanced 3DNow!」計45命令を実装した。発表当初からIntel陣営に「Pentium IIIキラー」と警戒されたと伝えられる。

クロック周波数競争;世界初の1GHz到達

AMD Athlon Thunderbirdコア(Socket A)
AMD Athlon Thunderbirdコア(Socket A)
1999年(平成11年)末から2000年(平成12年)にかけ、AMDIntelは「ギガヘルツ競争」と呼ばれるクロック引き上げ合戦を繰り広げた。2000年(平成12年)3月6日、AMDは0.18μmプロセスで製造したK75コア(開発コード名Orion)の1GHz品の出荷開始を発表し、x86系CPUとして世界で初めて1GHzの壁を突破した。
Intelはその2日後の3月8日にPentium III 1GHz版を発表したが、量産出荷が追いつかず「ペーパーローンチ」と揶揄された。この一件は、CPU市場の主導権がIntel一強からAMDとの競争へ移った象徴的な出来事として語り継がれている。

2000年(平成12年)6月には、モジュール上に外付けしていた512KBの2次キャッシュを、256KBのオンダイ2次キャッシュに置き換えたThunderbirdコアが登場する。容量は半減したがCPUと同じクロックで動作するため実性能は向上し、最終的に1.4GHzまでクロックを伸ばした。

先進的な「EV6バス」の採用

EV6バスのブロック図
EV6バスのブロック図
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Athlonは、DECAlphaプロセッサ向けに開発されたEV6バスをライセンス供与により採用した。データ幅は72ビット(64ビットのデータ+8ビットのECC)で、クロックの立ち上がりと立ち下がりの両エッジでデータを送る「ダブルポンプ」方式を採る。初代Athlonは100MHzのクロックで実効200MT/秒、帯域1.6GB/秒を実現した。

当時のIntel GTL+バスPentium IIIで100〜133MHz、シングルポンプ)を大きく上回る帯域で、AGP・PCI・メインメモリを含むシステム全体のボトルネックを解消した。EV6はマルチプロセッサ構成にも対応しており、後のAthlon MPの土台となった。Socket A世代では最終的に200MHzクロック(400MT/秒)・3.2GB/秒まで引き上げられた。

強力な3D・マルチメディア性能

Athlonは3本の浮動小数点演算パイプラインを備え、いずれもパイプライン化されたうえでアウトオブオーダー実行に対応していたため、Intel Pentium IIIを上回る浮動小数点演算性能を発揮した。命令セットにはAMD独自のSIMD拡張「Enhanced 3DNow!」を実装し、3Dグラフィックスや動画処理などのマルチメディア用途で高い性能を示した。当時のゲームベンチマークではPentium IIIを凌ぐ結果を残す場面も多かった。

インテル互換ソケットからの脱却

AMDK5K6系列はIntelSocket 7と互換性を保ち、Pentium用マザーボードでそのまま使えることを強みとしていた。しかしAthlonは独自規格のSlot A(242コンタクト)を採用し、この互換路線を初めて放棄した。Slot Aはコネクタ形状こそIntelSlot 1と同じだが、向きを180度反転させてあり、電気的な互換性も無い。

2000年(平成12年)6月には、より安価なピングリッドアレイ方式の「Socket A」(Socket 462)へ移行し、AthlonDuron・後のAthlon XPSempronまで幅広く使われる標準ソケットとなった。以後AMDは、Intelと物理的に独立したプラットフォーム戦略を貫き、OpteronAthlon 64の世代へ進んでいく。

圧倒的なコストパフォーマンス

Athlonは同クロックのPentium IIIと同等以上の性能を、より低価格で提供した。特にSocket A移行後はVIAなどサードパーティ製チップセットの参入でマザーボードの価格競争も進み、Intelプラットフォームに比べ組み立てコストを大幅に抑えられる点が自作PCユーザーに広く支持された。廉価版のDuronと合わせ、AMDはローエンドからハイエンドまで価格競争力のある製品ラインを整えた。

Pentium III・Pentium 4との性能比較

Pentiumの系譜を継ぐPentium IIIに対しては、同クロック帯で浮動小数点演算・整数演算ともAthlonが優位に立つ場面が多く、1999年(平成11年)から2000年にかけての各種ベンチマークで繰り返し確認された。「Pentium IIIキラー」という評価は、数字の裏付けを伴っていた。

2000年(平成12年)11月に登場したPentium 4NetBurstマイクロアーキテクチャ)は、深いパイプラインで高クロックを狙う設計だったが、1クロックあたりの処理能力(IPC)は低下した。このため初期のPentium 4は、クロック数値こそ高いものの、実クロックの低いAthlonにオフィス系ベンチマークなど多くの実アプリケーションで及ばない場面が目立った。
一方Pentium 4は、SSE2を活かした動画編集や3Dレンダリングでは優位を保っていた。AMDは2001年(平成13年)、実クロックではなく相対性能を示す「モデルナンバー」(PRレート)をAthlon XPで復活させ、Am5x86-P75以来の手法で、クロック数値の見かけ上の差を補うことにした。

派生品;Athlon XP、Duron、Athlon MP

AMD Athlon(Socket A、セラミック基板)
AMD Athlon(Socket A、セラミック基板)
初代AthlonK7K75コア、Slot A)を起点に、AMDは用途別の派生製品を展開した。2000年(平成12年)6月には2次キャッシュをオンダイ化したThunderbirdコアとSocket Aへ移行し、同月19日には廉価版のDuronSpitfireコア)を投入した。Duronは2次キャッシュを64KBに削減してコストを抑え、IntelCeleronに対抗して普及価格帯市場を開拓した。
AMD Athlon XP(Socket A、有機基板)
AMD Athlon XP(Socket A、有機基板)
2001年(平成13年)6月6日には、Palominoコアを採用しデュアルプロセッサ構成に対応したAthlon MPが、サーバー・ワークステーション向けに先行して登場した。同じPalominoコアを用いたデスクトップ向けのAthlon XPは同年10月9日に発売され、SSE命令のサポートと「モデルナンバー」表記を導入した。Athlon系列はその後Bartonコアまで発展し、64ビット化したAthlon 64Opteronへ引き継がれた。

主要スペック

項目 仕様
メーカー AMD
発売開始 1999年6月23日
開発コード名 K7(0.25μm)/K75(0.18μm、コード名Orion)
CPUクロック 500/550/600MHz(発売時)→K75コアで最大1GHz(2000年3月)
データバス 外部64ビット(EV6、ECCを含め72ビット)/内部32ビット
アドレスバス 32ビット
物理メモリ 4GB
システムバス EV6バス/100MHzダブルポンプ=実効200MT/秒、帯域1.6GB/秒
1次キャッシュ 128KB(命令64KB+データ64KB、2-way、ラインサイズ64バイト)
2次キャッシュ 512KB(モジュール上に外付け、CPUクロックの1/2・2/5・1/3で動作)
命令セット拡張 MMX、Enhanced 3DNow!(3DNow! 21命令+24命令=45命令)
トランジスタ数 約2200万
プロセスルール 0.25μm(K7)/0.18μm(K75)
ソケット Slot A(242コンタクト)
後継 Athlon(Thunderbirdコア、Socket A)→Athlon XP、Athlon 64

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1970年Garrett
AiResearch
MP944 (軍用)20bit375KHz
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1983年NECV3016bit16MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年インテルi96032bit100MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1985年エイコーンARM132bit6MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1988年MIPSR300032bit40MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1989年インテルi86032bit50MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1992年DECAlpha 2106464bit200MHz
1993年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60132bit120MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM1/M2/M3/M4/M564bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz

参考書籍

表紙 忘れ去られたCPU黒歴史
著者 大原 雄介
出版社 角川アスキー総合研究所
サイズ 単行本
発売日 2012年07月10日頃
価格 1,540円(税込)
ISBN 9784048867719

参考サイト

(この項おわり)
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