Cyrix Cx5x86は486ソケットで動くPentium級プロセッサ

1995年6月リリース
Cyrix Cx5x86
Cyrix Cx5x86
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Cyrix Cx5x86 は、Cyrix (サイリックス)  が1995年(平成7年)6月に発売した、i486 とソケット互換を保つ32ビットx86互換CPUである。開発コード名はM1sc
外見は従来の486互換CPUだが、内部構造はPentiumに迫る先進的な設計となっており、AMDのAm5x86と並ぶ、最速クラスのi486互換CPUとして知られる。

目次

Cx5x86誕生の経緯

Cx5x86 ダイ
Cx5x86 ダイ
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1995年(平成7年)、IntelPentium互換CPUがまだ市場に出そろわない中、Cyrixは自社の次期主力製品6x86(開発コードM1)の開発と並行し、そのコアロジックのサブセットに486系プロセッサ用のFSB(フロントサイドバス)インターフェースを組み合わせたCx5x86を投入した。
Pentiumを搭載できない(Pentium OverDriveを除く)既存の486 Socket 3マザーボードに対し、マザーボードを交換せずに中位クラス以上の性能を提供するアップグレード用プロセッサとして位置づけられた。かつての486DX2486DX4と同じく、外部インターフェースは32ビットデータバス・4GB物理メモリという従来の486の規格を保ちながら、CPU内部だけを刷新するという発想の製品である。
Cx5x86 アーキテクチャ
Cx5x86 アーキテクチャ
Cx5x86 は、命令パイプラインを6段に拡張したスーパーパイプライン構造を採用し、内部データバスも64ビット化した。さらに128エントリの分岐ターゲットバッファーによる分岐予測や、メモリ読み出しを先回りする仕組みを備え、Pentium6x86AMD K5、さらには第6世代のPentium Pro的とも評される特徴を持っていた。ただし演算パイプは1本のみで、Pentiumのような2パイプ構成ではない。

1次キャッシュは16KBのライトバック方式ユニファイドキャッシュを搭載する。i486 命令セットはほぼ完全にサポートする一方、Pentium 固有命令へのサポートはごく限られていた。外部バスも32ビットのままで、あくまで「486ソケットで動く、Pentium系設計を取り入れたCPU」という立ち位置の製品だった。

486との性能比

Cx5x86-100MHz動作時の性能は、IntelPentium 75MHz相当とされ、ほとんどのアプリケーションでこれを上回ったという。同じ100MHzクロックで比較すると、内部構造を刷新していない通常の 486DX4 を大きく上回る処理能力を示し、既存の486ソケットのままPentium級の体感速度を得られる製品として注目された。もっとも浮動小数点演算ユニットは486世代の構成のままで、Pentiumの半分程度の性能にとどまっていた。

Am5x86との違い

同じ「5x86」を名乗るCPUに、AMDAm5x86(開発コードX5、詳細は同名記事を参照)がある。Am5x86は、既存のEnhanced Am486DX4の製造プロセスを微細化し、1次キャッシュを倍増したうえで内部クロックを4倍速動作させた製品で、内部構造そのものは486の延長線上にある。同じSocket 3対応で性能も同程度だが、設計思想はまったく異なる。

一方Cx5x86は、64ビット内部バスや分岐予測を備えた新設計のコアで、同じコアクロックで比較すればAm5x86を大きく上回る性能を発揮した。その代わり動作クロックはAm5x86の133MHzより低い100~120MHzに抑えられている。このため「Am5x86は高速化された486」「Cx5x86こそが真の586アーキテクチャ」と評されることが多い。

眠れる機能

Cyrixは自社サイトで、分岐予測を有効にした状態でのPentium対抗ベンチマーク結果を公表していた。ところが実際に出荷されたCx5x86では、この分岐予測をはじめとする性能向上機能が、レジスタ設定により標準で無効化されていた。

理由は、出荷までに解消しきれなかった潜在的な不安定動作(後にCyrix coma bugと呼ばれるxchg命令まわりの不具合など)を避けるためである。有効化には専用ユーティリティでCCR(コンフィギュレーション・コントロール・レジスタ)を書き換える必要があったが、有効化すると初期ステッピング品を中心に32ビットコード実行時にシステムが不安定になることが多く、実運用ではオフのまま使われることがほとんどだった。

OEM版の存在

IBM 5x86C
IBM 5x86C
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Cyrix自身はファブレス企業で製造設備を持たず、Cx5x86の製造はIBMに委託していた。この契約に含まれる自社ブランド販売権により、IBMは同一設計のチップを「5x86C」として、SGS-Thomson(現STマイクロエレクトロニクス)も「ST5x86」として、それぞれ自社ブランドで販売した。
実質的には同一のチップだが、IBM 5x86CCyrix版より低めのクロック表記・低電圧品として、より保守的な仕様で販売され、Cyrix版が1996年(平成8年)に生産終了した後も1998年(平成10年)頃まで供給が続いた。

なおCyrixはこの後、グラフィックス統合型CPU「M3」(開発コードJalapeno)を1998年(平成10年)に計画したが、1999年(平成11年)のVIA Technologiesによる買収で開発は中止された。書籍『忘れ去られたCPU黒歴史』に詳しい。

Cx5x86搭載パソコン

ThinkPad 365
ThinkPad 365
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Cyrix自身は主要PCメーカーへの大口採用に乏しかったが、IBMは自社製造の5x86C/Cx5x86を、ThinkPad 365(100MHz構成)やAptiva 2144-120(5x86/100MHz構成)などのパソコンに採用した。

日本国内では、既存の486機をアップグレードするCPUアクセラレータとして流通した例が多い。アイ・オー・データ機器の「PK-586X4」にはCx5x86-100GPが搭載され、Socket 3対応の486マザーボードを持つPC-9821シリーズなどの延命に利用された。

主要スペック

項目 仕様
メーカー Cyrix(製造委託:IBM)
発売開始 1995年6月
開発コード名 M1sc
トランジスタ数 約200万
データバス 外部32ビット/内部64ビット
アドレスバス 32ビット
物理メモリ 4GB
CPUクロック 100~120MHz(133MHz版も存在)
1次キャッシュ 16KB(ライトバック、ユニファイド)
プロセスルール 0.65μm
ソケット Socket 3
動作電圧 3.45V

CPUの歴史

発表年 メーカー CPU名 ビット数 最大クロック
1970年Garrett
AiResearch
MP944 (軍用)20bit375KHz
1971年インテル40044bit750KHz
1974年インテル80808bit3.125MHz
1975年モステクノロジーMOS 65028bit3MHz
1976年ザイログZ808bit20MHz
1978年インテル808616bit10MHz
1979年モトローラMC68098bit2MHz
1979年ザイログZ800016bit10MHz
1980年モトローラMC6800016bit20MHz
1983年NECV3016bit16MHz
1984年インテル8028616bit12MHz
1985年インテル8038632bit40MHz
1985年インテルi96032bit100MHz
1985年サン・マイクロシステムズSPARC32bit150MHz
1985年エイコーンARM132bit6MHz
1986年MIPSR200032bit15MHz
1987年ザイログZ28016bit12MHz
1987年モトローラMC6803032bit50MHz
1988年MIPSR300032bit40MHz
1989年インテル8048632bit100MHz
1989年インテルi86032bit50MHz
1990年モトローラMC6804032bit40MHz
1991年MIPSR400064bit200MHz
1992年DECAlpha 2106464bit200MHz
1993年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60132bit120MHz
1993年インテルPentium32bit300MHz
1994年IBM, モトローラ, ApplePowerPC 60332bit300MHz
1995年サイリックスCyrix Cx5x8632bit133MHz
1995年AMDAm5x8632bit160MHz
1995年サン・マイクロシステムズUltraSPARC64bit200MHz
1999年IBM, モトローラPowerPC G432bit1.67GHz
1999年AMDAthlon32bit2.33GHz
2000年インテルPentium 432bit3.8GHz
2001年インテルItanium64bit800MHz
2003年AMDOpteron64bit3.5GHz
2003年インテルPentium M32bit2.26GHz
2006年SCE,ソニー,IBM,東芝Cell64bit3.2GHz
2006年インテルCore Duo32bit2.33GHz
2006年インテルCore 2 Duo64bit3.33GHz
2008年インテルCore i9/i7/i5/i364bit5.8GHz
2017年AMDRyzen64bit5.7GHz
2020年AppleM1/M2/M3/M4/M564bit3.49GHz
2023年インテルCore Ultra 9 / 7 / 564bit5.1GHz

参考書籍

表紙 忘れ去られたCPU黒歴史
著者 大原 雄介
出版社 角川アスキー総合研究所
サイズ 単行本
発売日 2012年07月10日頃
価格 1,540円(税込)
ISBN 9784048867719

参考サイト

(この項おわり)
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